Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

  “皐月の恋の辻占はvv
 

 
 辻占とは、読んで字のごとく、辻で占う占いのことで、運勢や何やを書いた小さな紙をたんと用意して小箱に入れておき、それを客がどれでもと選んでえいと引く。そのお人の生まれ月や名前の字画、手のしわなどなどは一切関係なく、吉と出るか凶と出るかは正に運次第というやつで。つまりは偶然に任せて、運との出会いや仕合わせを予想する“おみくじ”のようなもの。それを昔は、神社に行かずともとばかり、町中の辻を歩いて売っていたそうで。たいがいは12、3から17、8という幼く若い女の子が、それなりの衣装を着付け、鳴子を鳴らしもって、か細い声で売っていた。主に色街で恋占いとしての需要が高かったのでという背景事情もあってのことなれど、夜陰に細い声で、
『淡路島、かよう千鳥の恋の辻占〜』
 節をつけてのそんな売り声が聞こえてくるのは、何とも言えぬ寂寥感があったそうな。先のことは神様にしか判らない。そこで、ということか、昔っから“天神様の言うとおり”といった占いは色々とあって。勝負ごとから恋愛の行方、奈良・平安の昔なぞ、政治にまつわることまでも卜占で決めていたほどだというから、

  “日本人って神頼みが好きだよなぁ。”

 いや、外国にもこういうのは多々あると思いますが。
(苦笑) テーブルの上には、今時には珍しい“占いマシン”がおいてあったので、ついついそんなことをば思い巡らせた彼だったのだけれど。たとえ本当に、神様が決めた命運とやらは誰がどう踏ん張ったって動かせないとしても。そんな御託なんて聞いてやらんとばかり、何かとんでもない手を繰り出してねじ伏せてしまいそうなと、彼を知る者はそれこそ誰もが思って疑わない、そんな驚異の10歳児さんがちょこりと座っているのは、スタンド式のカフェの奥まったボックス席だったりし。今時の喫茶店はといえば、入ってすぐにどんと大きなカウンターがあるのが主体の、所謂“立ち飲み式”が主流となりつつある昨今ではあるが。他方で、休憩を兼ねてのコーヒータイムとしたい客もまた少なからずいるものだからと、セルフサービスながら座席を設けている店というのもまた、今のところはなくなりはしない模様。ちょうど交差点の前の角地という、なかなかの立地条件にあるこの店では、奥まった座席というのもまた反対側の通りに面している格好になるがため。壁全面をガラス張りの大窓とした作りとなっており。店内はそりゃあ明るくて見通しもよく、センスよく配置された観葉植物の大きな葉の濃緑が、表通りの街路樹の萌え初めの緑との拮抗を競っている。
“いーい天気だなぁ。”
 そんな小じゃれたお店の窓辺のお席へ、ちょこりと座っている彼の姿には、表の通りを行き交う人々も“あららvvおややvv”との視線を留めてやまなくて。何せ、その風貌が風貌だ。まだまだ小柄で、しかもほっそりとした肢体は、若木のようなしなやかさ。今時は茶髪で当たり前という感のある日本の若者たちではあるけれど、そんな半端なもんじゃあない。蜂蜜色した金の髪は、あくまでも自毛なのでつややかで瑞々しく。そんな軽やかな色合いのくせっ毛が、真白な額やほんのりとバラ色に染まった頬を縁取っていて何とも愛らしい。少々切れ長の、だが、まだまだ子供特有の丸みに張った目許といい、わざわざ触れなくとも柔らかそうだと判る、きめの細かい肌の乗った小鼻や頬といい。ツンと先の尖った形の、だが、そこだって和菓子のぎゅうひとかいう、ふわふかな羽二重もちを思わせるほどに柔らかなのに違いない口唇といい、あくまでも繊細な作りの面差しは、まったくもってバタ臭くはないから。西欧人の血が関与する、ハーフやクォーターといった存在ではないらしかったが。それでも…質のいいロウソクを思わせる、その内部の奥深いところへ光を呑んでいるかのような真白な肌や、金茶色という淡い色合いの瞳。そういった可憐で印象的な素養が、しかも名のある名匠が日本人の好みに合わせて手掛けたビスクドールのような、得も言われぬ愛らしいバランスで統合されてそこへと在るのだから。その視野へと収まった途端に、他の視覚的情報を全て押し出して、見た人の心を一瞬で魅了し、それが動く存在だと…暖かな血の通った生身の子供なのだと判って尚増すは、離れ難き切望。少しでも見ていたいからとの視線は、だが行く先のある身ゆえ、その足までは止められずの仕方なく。ぎりぎりの末まで彼の上から離れなかったりするその結果、
「…何かさっきから、うっかりぶつかり合ってる人が多くない?」
「そっか?」
 連休ボケじゃね? あんたこそ何を寝言言ってんの、連休なんてもう1週間も前に終わったでしょうがと。同席している男女がそんな掛け合いをしているのへと、苦笑混じりに意識を戻した小学生の彼こそは。すぐ目の前の舗道にての衝突事故の原因でありながら、そんな自覚なんて欠片ほども持ってない、蛭魔さんチの妖一坊やだったりするのですけれど。…今更白々しかったでしょうか?
(苦笑) 連休も幕を下ろして1週間が経つ五月の半ば。春の対抗戦が華やかに開催されている大学アメフトに、今のところは新入生であるがゆえ、ベンチウォーマーやマネージャーのおまけ扱いにて同行参戦している真っ最中の葉柱のお兄さんと、今のところはまだ部の方へ合流していない露峰メグさんという、それは重厚な偉丈夫と美女という二人に連れられて、ちょいとお茶している妖一くんだったりし。ついさっきまで、次の対戦相手となる大学のチームの偵察(スカウティング)にと、揃ってお邪魔していたところ。高校時代の結構な活躍ぶりをさすがに知られていたもんだから、少々警戒されかかったもんの、
『おねいちゃんたちって、ちあの人ぉ?』
 いかにも幼いお子様ぶりこで、女性部員たちの中へと潜り込んだ妖一くんへ、
『きゃあvv かわいいvv
『あ、この子知ってる。カメレオンズのマスコットやってたでしょう?』
『わあ、初めて生で見られた、ラッキーvv
 なんてな調子で、皆さん一気に気勢をほぐされたので、その後は和やかなままに練習風景を見せてもいただけ、無事に帰途についているという次第。
「早くも新入生がシフト練習に立ってたね。」
 ルイさんと同じ世代の一回生らも、多数グラウンドに立っていたし、中にはレギュラー用の練習着を着ていた顔触れもいたのを、しっかりとチェックしていた彼らだが、
「ま、ウチの方も、時間の問題でしょうけど。今の今 部内で幅利かせてんのは、詰まるところ…ルイが高校に上がってすぐに伸して回ったクチが大半だしさ。」
 都立の大学だから、外部入学して来た顔触れだって勿論のこと居るけれど、今の三回生はギリギリで葉柱の兄である斗影の率いていた体制をその肌身で覚えてもいようし、高校からの持ち上がり組は…3年前の高校生時代、最上級学年になった途端、まだ中坊との端境にいた弟君に片っ端から薙ぎ倒された身の者らばかり。腕っ節や統率力に兄の威を借りぬ彼なのも変わらないままならば、アメフトの実力だって高校生時代でますます磨きをかけた身なのは…往生際悪くも知らぬ顔なぞ不可能なほどに、世間が先に認めてもいること。マスコミもアメフト協会やら協議会やらの関係者たちも、こぞって“頼もしい顔触れが上がって来ましたねぇ”と誉めそやするとあっては、知らん顔にも限度があって。
「それでなくとも、新・黄金世代なんて言われてるこの世代だからな。」
 他校へもそれぞれに、指折りの選手たちが進学しての揃い踏み。勝って注目されたければ、詰まらない意地や見栄を張っている場合ではない。実力のある強い選手にはどんどん出てもらっての頑張ってもらわにゃ、弱小かと鼻先で笑われるような立場になるだけだくらいは、お兄様がたも重々承知であるようだから。冗談抜きに…葉柱を筆頭に、高校アメフトでも名を馳せていた顔触れが、途中からだとかのサブ扱いながらも、新一回生部員でありながら先輩部員を押しのけての早々と、何試合かに出ているのが現状。そうやって出場したゲームで活躍してアピールすれば、それがまた次の出場にもつながるというもので。
「もうルイとツンさんは後半要員確定なんだろ?」
 いかにも“使い捨てです”タイプの、ストローと蓋つきプラスチックカップを白い両手で抱えるように持ったまま、小さな坊やが色めき立つ。
「あと、銀と足塚と、俊也と一美?」
「そんなとこだが…よく見てやがんのな。」
 坊やのほうの都合が合わなかったり、はたまたルイさんがあまりに忙しい当番になっていて連れてってやるどころじゃなかったという日もあったので、全部の試合へとご招待が叶ってた訳じゃないし、ケーブルテレビだって他のスポーツの中継もあろうから、これまでの春大会、全試合を放映してはいなかった。だってのに、今期の賊大フリルリザードの戦績や出場選手の出入りを全て、しっかり把握している坊やであるらしく、
「そんなもん軽い軽いvv
 わざとに長袖、しかも手首や甲にかかっての“萌え袖”になるようにとちょっぴり長い目のを羽織ってきた薄手のパーカーのそのお袖から出した、小さなお手々をチッチッチッなんて横に振り。立てた指をハイパーみたいにして振って見せた坊やとて、どんな手を使ってでも会場まで行った…という訳には残念ながらいかなかったので。
“阿含なんて、わざとに試合と重なるような別会場のXゲームのチケットくれてたりしたもんな。”
 おおう、それはまた狡猾な。相変わらず大人げないお人ですねぇ、あの歯医者さんは。いくら“総長好き好き”な坊やでも、途中のどっかからしか出て来ないルイさんの勇姿と、フル出場するプロリーグのお目当て選手の試合なんてもんを天秤にかけられては…ねぇ?(苦笑)だったりしたので、大学の試合の方は、それなりの伝手やらコネやら…きょうはくてちょうの中からセレクトした顔触れへ、

  ――― あんたは撮影、あんたは敵チームの撮影。
       クォータごとのタイムテーブルのチェックと、
       各選手ごとの運営表はあんたとあんただ。
       先週講習のCD送っといたから、記録の仕方は判ってるよな?

 そうとしっかり言い付けて、資料は申し分なく集めているというから末恐ろしく。

 「ま、秋大会にはフルで出るんだろうから。
  そん時はちゃんと全試合、観にいってやらあ。」
 「…痛み入ります。」

 あの学ランはもはや着てはいないが、多少は意識が残ってのことか。こちらさんは白地のブルゾンを羽織った葉柱が、ワークパンツのお膝に大きな手をつき、頭を深々下げる真似をする。おふざけ半分の楽しげな、だが、このジャンルに限っては本気だからこそ口に出来るお言いようを交わした男衆二人を、
“熱くなっちゃって、このぉ〜vv
 男同士だからこそのこと。単なる甘やかな恋情のみならず、相手の矜持とやらへも惚れ合ってるだなんて、こゆとこが普通の男女のバカップルとは一味違う“真摯さ”なのねと。まあまあ微笑ましいねぇと、対岸の火事のような余裕でもって(引用間違い?)眺めやっていたメグさんへ、

 「…あのね? メグさん。」

 不意に鳴り出した携帯の着メロが、先に名前だけ出しました、葉柱のお兄さんのそのまた兄上からのものだったらしくって。留守電には出来ないからと、総長さんが応対するためにちょろっと席を外したその隙に。金髪の坊やがテーブル越し、小声でのお声をかけて来た。
「んん?」
 なぁにと小さく瞬きをすると、大人っぽいお化粧がなのにやんわり甘い趣きになる。目鼻立ちがくっきりしているそのせいで、濃い化粧にしないと逆にうらぶれた安っぽいお姉さんみたいになっちゃうのよねと、思い込んでる節のあるメグさんだけれど、
“だったら“すっぴん”でいりゃあいいのにね。”
 こちらさんはこちらさんでおミズ系のお姉さんに知り合いの多い坊やの感覚からいえば、十分綺麗なのに勿体ないなぁというところならしくって。まま今はそれはともかく。

 「あのね? メグさんて、先々では斗影さんのお嫁さんになんの?」
 「………あ。」

 チーム管理や情報操作。練習試合や突発至急のイベントの立ち揚げまで、自分たちが何人かかっても到底太刀打ち出来ないほど周到な、水も漏らさぬ手配が打てるほど、人脈も豊富ならご本人の機転や行動力も恐るべき、正に“小悪魔”な坊やだってのに。
「…お嫁さん?」
「うん。」
 こっくり頷く仕草も可愛らしく。よくよく考えてみりゃ…年齢相応なことを年齢相応な語調にて、訊いて来た彼だってのに。
“………。”
 ふと、どう答えたものかと躊躇が挟まってしまう。これがあの瀬那くん辺りに訊かれたのなら、
『や〜だ、このおマセさんvv
 いや、これは無いか。
(苦笑)
『さあねぇ、どうなるんだかねぇ。』
 いかにも誤魔化すような口調での、はぐらかすような言いようになっていたところだろうが、
“わざわざ子供っぽく訊いてきたってことは。”
 くすんと笑ったお姉様、少し濃いめの紅の乗った口元へコーヒーのストローを運んでから、

  「どうなるもんだろうかねぇ。」

 ちょっぴり眉を下げて応じて差し上げる。途端に、幼い造作の坊やのお顔が、えっと意外そうに強ばった。それへと、
「ふふ〜ん。あっさりゴールインするもんだとか思ってた?」
 意地悪そうなお顔を作っての、目許を眇めて見せるメグさんであり、
「…うん。」
 だって、妖一くんも知っていること。このメグさんは葉柱さんのところの遠い親戚のお嬢さんだという間柄なので、彼らが小さいころから一緒くたにされて育って来た節があり。そんな中から、斗影さんとのお付き合いが始まりもした彼女だということなので、言ってみりゃとっくの昔に家族公認、障害になるものは何にも無しという恵まれた環境だろうにと、そうと思っていたのにね。つやつやに塗られた赤い爪が映える、白い頬へと掌を伏せての頬杖をつき、藤色の七分袖のカットソーに包まれたきれいな腕を、残った手でテーブルの上、軽く抱えるようにしたメグさん、
「だってほら、あの人、お父さんの名跡を継ぐことになるからさ。」
「あ、やっぱ政治家になるんだ。」
 彼らの父上は都議会議員・葉柱蝮。その先代もそのまた先代も都議を務めた、言ってみりゃ政治家の家系というやつで。東京都とはいえ一介の地方議会議員に過ぎないものの、その人脈の豊かさには…すぐ間近いお隣りにあったりする“中央”への“もの申す”が、結構な影響を来たすのではないかと十分思われているほどというから…政治の世界はなかなかに奥が深い。
(こらこら) 何も同じ道を選べと無理強いされてはいないらしかったけれど、両親の奨励ぶりや周囲の方々との結び付き、絆というものの暖かさや厳しさなどなどを間近に見ておれば、心動かされずにはいられないものなのだそうで。
「あの人が言ってるの。盤石な支援基盤があるて言われておっても、オカンがどんだけ苦労して来たか、よう知っとるけん…て。」
 ほほお?
「じゃけん、ワシが勝手に決めていいこつやないしのう、なんて。/////////
 きゃあもう、なんて恥ずかしいこと言ってくれるのかしらねえと。とうにその視界の中に妖一くんはいなかったらしい目許を朱に染め、真っ赤になったそのお頬を掌でこしこしと擦りつけつつ、もう片方の手ではテーブルをばしばし叩くメグさんだったりし。

  「…うわぉ。」

 日頃のあの、ささらに裂けた竹刀を肩に担いでの、女だと思って舐めてたら泣きを見るよと言わんばかりの、切れるように冷たく尖った威勢はどこへやら。やはり女性なんだねぇという今更ながらな感慨もあったが、それ以上に、

 “そっか。もう そういうことを話してたりするんだ。”

 先のこと、将来のこと。勝手に決められないという形にて、話題に上ってる二人だということが、妖一坊やにも伝わっており。なんだやっぱり、もう決まってるようなもんなんじゃないかとの苦笑を誘った。そして、
「あ…と。/////////
 ヤダヤダもうもうっ、と。テーブルを叩いたその物音にて、店内の目が一気に集まってしまい、その気配ではっと我に返ったお姉様。居住まいを正すと、んんっと小さく咳払いをしてから、
「ま、安心なさい。」
「?」
 急にあらたまってしまったその上で、一体何を言い出すのやら。純粋に予測が立たなくてのこと、ひょこりと小首を傾げた小悪魔坊やへ、

  「ルイとヨウちゃんの間柄、あたしは勿論応援したげるし、
   それ以上にルイんトコの伯母様からして、
   ヨウちゃんたらずっとルイの傍に居てくれるのかしらなんて、
   心配しているほどなんだしサ。」

 だから、何にも心配は要らないんだよと、にっこし微笑ったお姉様へ、
「え? あ、や、あの…。//////////
 いやえっと、そんなの心配してての前振りしときたかった訳じゃなくてと。言い返したい口が回らないまま、今度はこちらが真っ赤になった坊やだったりし。

  「…何の話で盛り上がっとる。」

 やっとのことお電話が終わったらしい総長さんが戻って来たのへ、
「やーねっ、この果報者っ!」
「はあ? …つか、痛てぇって。連続してバシバシ叩くな、こら。」
 傍から見るとどういう組み合わせのカップルに見えているやらな、合い変わらずにややこしい人たちだけれども。今の会話なんざ聞いてると、結構かわいらしいもんじゃあないですかと。傍らにあったベンジャミナの鉢の、緑の葉っぱがくすくす笑いをしながら揺れている。そんな五月の昼下がりの一幕でございましたvv






  〜 Fine 〜  07.5.14.


  *相変わらずににぎやかなお人たちであるようです。
   そして、メグさんは
   先々で妖一くんの義理のお姉様になること確定らしいです。
(笑)

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